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オオムラサキ

 年1回、7月上旬〜8月上旬に発生。タテハチョウ科では世界最大級の大きさで、日本では関東以南の個体が大型となる。東北から北海道のものは一般に小型の傾向にあるが、青森県での前翅長平均は♂49o・♀57oであったとの小舘氏の調査報告があり、♀62oがその時の計測上の最大値。また、同県での裏面色彩は殆どの個体が無紋淡黄色〜黄色で、稀に白色型が混じる。♀の白色型の記録は数例しかなく、記紀伝説に登場する絶世の美女「衣通姫(そとおりひめ)」と称したい。
 県南には生息地が多く、八戸市是川、階上町階上岳、名川町名久井岳のほか、五戸町、三戸町にも広く分布している。神社の参道や集落の裏山で遭遇することが多く、♂は高所を飛翔するので発見しにくいが、♀は比較的低く滑空し青葉闇に消える姿を見かける。これは幼虫の食樹であるエノキやエゾエノキの大木は神社境内にあることが多く、♂はその近くの見晴らしの良い樹冠葉上でテリトリーを張り、♀は楢や楓の樹液と産卵場所を探しながら飛翔するためであろう。
 卵は葉や枝にまとめて産卵され、孵化した幼虫は緑色で2p位まで成長し10月下旬頃に食樹を降りて越冬する。初冬に食樹根際近くの落ち葉を丹念に探すと、鍬形兜状の角を持った褐色に変化した4令幼虫を発見できる。翌春芽吹きの頃、食樹に戻ると再び緑色となって葉上に台座を構える。更に2回の脱皮を遂げ70oにまで達した幼虫は、2週間の蛹期を隔て彩り豊かな斑紋と風格を備えた「日本の国蝶」となる。

オオムラサキ ♂

♂ 裏面

オオムラサキ黄色型 ♀

♀ 裏面

オオムラサキ白色型 ♀

♀ 裏面

文章,写真:阿部 泰文
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コムラサキ

 年1回、7月上旬から発生する。オオムラサキ同様♂の翅表は紫色に輝き美しいが、やや小型なのでこの名がある。中国大陸から欧州にかけて多くの種類が分布しており、どれも色彩豊かに輝く個性あるものばかりで、愛好家の中でも人気の高いグループである。
 青森県内ほぼ全域に生息しており、公園や渓流沿いの山道で、片蔭から姿を現しては葉上で長い触覚をピンと伸ばし陽光を浴びている姿が観察できる。また、樹液にも飛来するが、給水やミネラル、栄養補給で地面にもよく降りる。分類体系上ではオオムラサキやゴマダラチョウと共にコムラサキ亜科を形成し、パタパタと数回小刻みに羽ばたいてから風に乗って滑空するといった亜科特有の飛翔方法をする。発生初期には複数の個体がまとまっていることが多いが、人の気配には敏感で近づくのが難しい。幼虫の食樹はヤナギ類を広範に食す。

コムラサキ ♂

♂ 裏面

コムラサキ ♀

♀ 裏面

文章,写真:阿部 泰文
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ゴマダラチョウ

 青森県では6月下旬から7月中旬に春型、地域によっては8月下旬から9月に夏型が発生する。夏型は比較的少なく、春型よりも小型でモノトーン模様も濃い。春型の白化傾向については、個体変異が多く、対馬産が本土産より白い傾向にあるとして文献等で報告されるが、青森県産にも白化が強く進んだ標本が散見されるので興味深い。
 成虫は樹液に飛来するが、高所を敏速に飛翔するのであまり目立たない蝶である。越冬幼虫はオオムラサキと同様にエノキ、エゾエノキの根元付近の落ち葉で発見される。オオムラサキは4令幼虫で越冬するが、ゴマダラチョウは5令幼虫で越冬するためひとまわり大きく、背部の突起数もオオムラサキでは4対、ゴマダラチョウは3対であることから区別できる。
 追記したいのは、元来から日本に棲息しているゴマダラチョウ属は、本種ゴマダラチョウ(Hestina japonica)とアカボシゴマダラの奄美大島亜種(Hestina assimilis shirakii )の2種だけであった。しかし、1995年から埼玉、神奈川県を中心としてアカボシゴマダラの原名亜種(Hestina assimilis assimilis)と考えられる個体が採集されてから、生息範囲を拡大し個体数も増えている。これは中国四川省産の特徴を有しており人為的移入によるものと考えられ、ゴマダラチョウやオオムラサキと同じエノキ類が幼虫の食樹であり、繁殖力も強いことから生態系の崩壊が危ぶまれている。
 青森県に於いてはまだ採集されていないが、今後採集される可能性もあるので参考までに写真を掲示する。アカボシゴマダラは変異が激しく、白化が強いものでは後翅赤紋が消失し、ゴマダラチョウと近似する形態となるので鑑別が必要である。

ゴマダラチョウ春型 ♂

♂ 裏面

ゴマダラチョウ春型 ♀

♀ 裏面

ゴマダラチョウ夏型 ♂

♂ 裏面

アカボシゴマダラ 神奈川県 ♂

アカボシゴマダラ 神奈川県 ♀

アカボシゴマダラ 奄美大島 ♂

アカボシゴマダラ 奄美大島 ♀

アカボシゴマダラ 台湾 ♂

アカボシゴマダラ 台湾 ♀

アカボシゴマダラ 雲南 ♂

アカボシゴマダラ 雲南 白化♀

アカボシゴマダラ 四川省 白化♂

アカボシゴマダラ 四川省 ♀

文章,写真:阿部 泰文
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キベリタテハ

 年1回、県内では7月下旬から8月に新成虫の発生が始まる。全国的には、北海道から中部地方までの主に山地に分布している。野外で♂♀を判断するのは難しい。山地性の種のため八甲田山などの高標高地域で多く見られるが、秋季や越冬した個体は平地や低山帯で見ることもできる。飛翔は敏速でタテハチョウ科らしく力強い。路上や岩に静止しているところを見かけることが多いが、不活発な朝・夕を除けば人間の接近には敏感に反応してよく逃げられる。
 樹液や獣糞に集まる性質があるため、青森市の酸ヶ湯温泉では丈の低いダケカンバの樹液に飛来しているのを見ることがある。樹液に来ているものはわりと鈍感で、かなり近寄って観察することができる。成虫で越冬し、翌春に産卵行動を行う。幼虫の食草はカバノキ科のダケカンバやヤナギ類。

キベリタテハ ♂ 青森市

♂ 裏面

キベリタテハ ♀ 青森市

♀ 裏面

文章,写真:上原 康己
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ヒオドシチョウ

 県内では発生のピークは6月下旬から7月上旬頃で、年1回の発生。夏眠の習性があるためそのまま8月頃まで見られることはなく、大体は7月中に姿を見なくなる。秋にきのこ狩りに行った際に日光浴をしている個体を目撃したことがある。低山帯から標高の高い地域まで広く見られるが、県内において以前は7月に見られる新成虫は行けば必ず見られるチョウではなかった印象があるが、ここ10年ほどで目撃する機会が増えたように思う。飛翔は速く、路上や樹幹、電柱などに静止する姿を見かけ、また、樹液にも飛来する。雌雄の性差は微妙で、ひと目で♂♀を判断するのは難しい。成虫のまま越冬し、翌春産卵する。主な食草はニレ科のハルニレ・オヒョウ・エゾエノキやヤナギ類。

ヒオドシチョウ ♂ 青森市

♂ 裏面

ヒオドシチョウ ♀ 青森市

♀ 裏面

文章,写真:上原 康己
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エルタテハ

 和名の由来は後翅裏面、アルファベットのL字型模様の白斑による。全国的には北海道から近畿東部まで分布しており、キベリタテハと同じく山地性の種。県内では八甲田山や白神山地の周辺地域などで見られるが多いものではない。年1回の発生、県内での成虫のピークは8月、発生地では活発に飛び、樹液に飛来し吸汁するが人の汗にも来る。以前、西目屋村で林道沿いの湿った崖に複数のエルタテハが飛んできて盛んに吸汁する姿を見たことがある。
 野外では一見ヒオドシチョウに似ているが、裏面であれば名の通りのL字紋があるので判別できる。翅を開いて止まっている個体は、外縁の黒帯にヒオドシチョウの場合青く輝く斑紋列が重なって見えることで区別できる。成虫のまま越冬し、春以降に産卵する。幼虫の食草はニレ科のハルニレやオヒョウ、カバノキ科のダケカンバ・ウダイカンバなど。

エルタテハ ♂ 青森市

♂ 裏面

エルタテハ ♀ 青森市

♀ 裏面

文章,写真:上原 康己
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エルタテハ

 和名の由来は後翅裏面、アルファベットのL字型模様の白斑による。全国的には北海道から近畿東部まで分布しており、キベリタテハと同じく山地性の種。県内では八甲田山や白神山地の周辺地域などで見られるが多いものではない。年1回の発生、県内での成虫のピークは8月、発生地では活発に飛び、樹液に飛来し吸汁するが人の汗にも来る。以前、西目屋村で林道沿いの湿った崖に複数のエルタテハが飛んできて盛んに吸汁する姿を見たことがある。
 野外では一見ヒオドシチョウに似ているが、裏面であれば名の通りのL字紋があるので判別できる。翅を開いて止まっている個体は、外縁の黒帯にヒオドシチョウの場合青く輝く斑紋列が重なって見えることで区別できる。成虫のまま越冬し、春以降に産卵する。幼虫の食草はニレ科のハルニレやオヒョウ、カバノキ科のダケカンバ・ウダイカンバなど。

エルタテハ ♂ 青森市

♂ 裏面

エルタテハ ♀ 青森市

♀ 裏面

文章,写真:上原 康己
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キタテハ

 県内では全県的に分布していると思われる。発生は通常年2回、平地から低山地にかけて見られ、1化目は6月下旬から7月にかけて発生し、2化目は9月から10月にかけて発生する。県内では近似種のシータテハと同所的に見られることもあるが、数的にはキタテハのほうが少ないように思う。
 秋型は夏型に比べて翅の切れ込みが激しく、凹凸が目立つようになる。よく似たシータテハとは、表面の主に後翅亜外縁黒紋の中に青色紋がキタテハには存在しシータテハにはないことで区別できる。成虫のまま越冬し、その後、交尾産卵を行う。幼虫の主な食草はクワ科のカナムグラ。

キタテハ 夏型♂ 青森市

♂ 裏面

キタテハ 秋型♀ 深浦町

♀ 裏面

文章,写真:上原 康己
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シータテハ

 和名のシータテハは後翅裏面中央にあるアルファベットC字型模様の白斑による。全国的には北海道から九州にかけて分布するが、キタテハと比べると寒冷地に多い。県内ではやや局地的ではあるが全県的に分布していると見られ、平地から山地まで広く生息している。
 年2回の発生で、1化目は7月から8月にかけて、2化目は9月頃に見られる。キタテハよりもさらに顕著な季節型を示し、秋型は前翅では外縁中央が激しく内側にえぐれ、後翅は夏型よりも尾状突起がより目立つようになる。飛翔は活発で林縁などを飛び回り路上などに止まり、訪花や樹液にも飛来する。成虫で越冬し、翌春交尾産卵を行う。幼虫の食草はニレ科のハルニレ・オヒョウ・エゾエノキ、イラクサ科のアカソなど。

シータテハ 夏型♂ 青森市

♂ 裏面

シータテハ 秋型♀ 蓬田村

♀ 裏面

文章,写真:上原 康己
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