サラサヤンマ Oligoaeschna pryeri(Martin)
県内では津軽地方、下北地方、上北地方の一部で記録されており、極めて局地的に分布していますが、発見例が近年増えてきた種類です。6月中旬から下旬ころにかけて、成虫は沼の周りに広がった林の中の、水のあまりない湿った場所や、そうした環境に隣接した林道や日当たりのよい小空間でよく見かけます。
幼虫は一般的な沼や池では見られず、シダ植物が生えるような林の中の湿った場所に生息しているという、トンボの仲間では一風変わった生態をしています。
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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アオヤンマ Aeschnophlebia longistigma
県内では主に上北地方、津軽地方の低地の湿地帯に分布しています。海岸に近い低地の湿原内の池や沼、特に人の背丈以上あるような深いアシ原で一面覆われているような沼に生息しています。成虫は上北地方では6月下旬頃から発生し、真夏になっても飛翔している個体を見ることがあります。アシがよく茂った沼本体に隣接した草地で、休息している個体や羽化したての若い個体、交尾中の個体を見ることも多く、その若草色の体色が見事に保護色になっています。こういった場所を歩いていると、止まっていた個体がよく足元から飛び出してきます。
青森県南地方は、夏には北東の海上からの冷たい季節風「やませ」が吹く日があります。アオヤンマの生息する海岸沿いの湿地帯は、その影響で涼しい日も多いため、その発生が他の地域より遅くなっていることが、地域の特徴の一つかも知れません。
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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ミルンヤンマ Planaeschna milnei
県内各地に分布しますが、それほど多くはない種類です。丘陵地や低山地の杉林・雑木林の中を流れる薄暗くて小さな沢、中山間地の水田横の溝川、谷間の小さな渓流などに生息しています。成虫は7月下旬頃羽化し、お盆過ぎから9月上旬頃に多く見られます。特に若い個体は夕方薄暗くなると活発に飛びまわり、昼間のうちは樹木の枝先などにぶら下がって休んでいます。真夏には、視界が利かないほどの暗闇の中、河川周辺の道路上、もしくは良く茂った木の梢のまわりなどを縦横無尽に飛びまわっていることがありますが、秋が深まるにつれ明るい時間帯にも活動するようになります。また日没時間の関係か、本県では活動時刻が関東地方より若干早い感じがします。
雌は沢沿いに転がっている湿った朽木に単独で産卵し、人が近づいても逃げることなく熱心に産卵し続ける姿が観察されます。
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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コシボソヤンマ Boyeria maclachlani
県内各地で記録されていますが、個体数は多くない種類です。丘陵地や低山地をゆったりと流れる浅い細流や、中山間地の水田脇の用水路、沼から流れ出る自然度の高い放水路などで、樹木の枝が流れの上に覆いかぶさったような環境で見られます。7月中に羽化した個体は、発生地付近の林などで過ごし、8月上旬には夕方に流れの上で縄張りを張る個体が見られるようになります。北海道では複眼の色が青色となる個体が記録されていますが、本県でも若干青味がかる個体が出現します。また、暖地の個体群に比べて体色の地色が赤褐色となり、華奢な体形となる傾向があるようにも見受けられます。
本県では1960年代までは多くの地域で普通に観察されたという記録が残っていますが、現在では限られた場所でしか見られなくなりました。
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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ヤブヤンマ Polycanthagyna melanictera
県内では主に津軽地方のいくつかの地点で記録されており、本県が分布の北限となっています。 関東地方などでは付近に林がある暗めの池沼や、山間部の谷戸、社寺や公園の池などに生息していますが、県内では山間部の広場などで摂食飛翔しているものや家屋に飛びこんできた個体が偶然採集されている場合が多く、1頭も観察されない年もあります。おもに7月から8月の盛夏のころに成虫が見られ、昼間は薄暗い林内の樹木にぶら下がって休んだり、薄暗い沼の上を往復飛翔したりしていますが、夕方や早朝には開けた場所に出てきて摂食(黄昏飛翔)を行います。
県内では古くから記録されているわりに情報が少なく、今後の詳細な調査が待たれる種類です。
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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マダラヤンマ Aeshna mixta soneharai
県内各地に分布し、県南から上北地方にも多くみられます。当地方では平地から低地の、マコモやアシ等が繁茂した泥深い池沼に生息しています。成虫は真夏に羽化し、未熟な若い個体は一度水辺を離れて生活し、秋風が吹くころに池や沼に戻ってきて生殖活動を行います。観察していると、雄は沼に密生したアシやマコモの中に深く潜り込み、時間帯によってはなかなか沼の上空に姿を見せないことがあります。また、正午頃の暑い時間帯は、沼の中のアシやフトイの葉の上に斜めに乗っかるように止まっていることが多いようです。
放浪癖のあるトンボなのか、成虫の多くみられる本来の生息地から遠く離れた小さな池でも、飛来してきた個体を見かけることが結構あります。
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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ルリボシヤンマ Aeshna juncea juncea
県内各地に分布し、県南地方にも多くみられます。当地方では低地から山地にかけての小規模な池沼、湿原、休耕田などに生息しています。成虫は夏に羽化し、晩夏から初秋にかけて、成熟した個体が池沼に戻ってきて生殖活動を行います。各種の湿性植物が繁茂し、開放的な水面がなくなりそうなくらい遷移が進んだ浅い池沼に多く、木立に囲まれた休耕田でも成虫がみられます。オオルリボシヤンマに良く似ていますが、♂は水色の斑紋が腹の根元と先の節だけにあることや胸の斑紋の形状、♀では胸の斑紋の形状や腹の先の付属器の形で区別できます(画像を参照してください)。
また、夏のブナ帯の林道では、夕方薄暗くなって視界が利かなくなるころ、多数の若い個体が林道上を群れ飛ぶことがあります。
ルリボシヤンマ♂ |
ルリボシヤンマ♂横面 |
ルリボシヤンマ♂顔面 |
ルリボシヤンマ♀黄緑型 |
ルリボシヤンマ♀青型 |
ルリボシヤンマ♀尾部付属器 |
ルリボシヤンマ♀胸部拡大 |
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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オオルリボシヤンマ Aeshna nigroflava
県内各地に分布し、県南地方にも多くみられます。当地方では低地から山地にかけての池や沼で普通に見られ、最も目にする機会が多いヤンマです。成虫は夏に羽化し、7月下旬頃から成熟した個体が池沼に戻ってきて生殖活動を行います。♂は開放的な水面を大きく悠々と飛び、♀は池や沼に繁茂しているアシやヨシの茂みに潜り込んで産卵しています。ルリボシヤンマに良く似ていますが、♂は腹の各節の斑紋が全て水色なことや胸の斑紋の形状、♀では胸の斑紋の形状や腹の先の付属器の形で区別できます(画像を参照してください)。
オオルリボシヤンマ♂ |
オオルリボシヤンマ♂横面 |
オオルリボシヤンマ♂拡大 |
オオルリボシヤンマ♀尾部付属器 |
オオルリボシヤンマ♀胸部拡大 |
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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ギンヤンマ Anax parthenope julius
県内各地に分布し、県南地方にもみられますが、珍しい種類ではないのですが、それほど多くは見かけない種類です。成虫は平地の開放的な池や沼を悠々と飛ぶのが見られます。近い種類にクロスジギンヤンマがありますが、胸部横面の黒い筋がないことや、腹部の斑紋の色で見分けられます。また、両種の雑種「スジボソギンヤンマ」も存在することが知られています。
ギンヤンマ♂ |
ギンヤンマ♂横面拡大 |
ギンヤンマ♂拡大 |
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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クロスジギンヤンマ Anax nigrofasciatus nigrofasciatus
県南地方にもみられますが、それほど多くは見かけない種類です。従来から記録されている種類ではあるのですが少なく、最近になって発見・採集例が増えており、温暖化の影響からなのか県南地方では個体数が増えてきている印象を受けます。成虫は6月上旬には平地の木陰の多い池や沼を飛んでいるのが観察されます。近い種類にギンヤンマがありますが、胸部横面の黒い筋が発達していることや、腹部の斑紋の色で見分けられます(画像を参照してください)。また、両種の雑種「スジボソギンヤンマ」も存在することが知られています。
クロスジギンヤンマ♂横面 |
クロスジギンヤンマ♂拡大 |
クロスジギンヤンマ♂横面拡大 |
文章:幸田 洋平
写真:市川 裕二
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